有痛性骨転移に対するストロンチウム89内用療法
ストロンチウムの供給停止に伴いストロンチウム治療を終了致しました。
癌の骨転移とは
癌が進行すると、癌の原発巣から癌細胞が血液やリンパ液の流れに乗って他の臓器やリンパ節に流れ、そこでまた癌細胞が増殖を始めます。これを転移と呼びます。
転移は様々な臓器に起こる可能性がありますが、骨は肺や肝臓などと並んで転移の多い臓器です。骨に転移が生じると、癌細胞からの化学物質の分泌や、増大した腫瘍による刺激などにより強い痛みを生じるようになります。
ストロンチウム内用療法の概要
ストロンチウムとは、金属の一種で、骨を形成しているカルシウムと似た性質を持っています。このストロンチウムの同位体で、β腺と呼ばれる放射線を放出する放射性ストロンチウム89(Sr-89 半減期50.5日)がこの治療に用いられます。
ストロンチウム89内用療法の機序
骨転移のある部分の周囲は骨の代謝が活性化しているため、カルシウムが多く取り込まれるようになります。ストロンチウムはカルシウムと似た性質を持っているため、体内に注射されたストロンチウム89は骨の代謝が盛んな場所に集まり、そこでβ腺と呼ばれる放射線を放出します。この放射線が骨転移巣に作用し、疼痛を軽減させると考えられています。
β線は体内では最大8mm程度の距離しか飛ばないため、ストロンチウム89の投与を受けても周囲の人々に直接影響を与える心配はありません。
また、骨や骨転移部位に集積しなかったストロンチウムは尿から排泄されるため、骨以外にはほとんど影響は与えません。ただし、尿中にストロンチウム89が含まれるため、投与後一週間程度は排尿時などに周囲を汚さないように注意が必要です。(詳しくは放射線治療科外来にお問い合わせください)
ストロンチウム89内用療法の適応
この治療法は、下記の様な条件を満たした患者さんに対して実施することができます。
- 病理学的に固形癌が確認されていること
- 多発性骨転移による疼痛がある
- 骨シンチグラムで疼痛に一致する集積亢進がある
- 白血球数が3000/μlもしくは好中球が500/μl以上
- ヘモグロビンが9.0g/dl以上
- DIC(播種性血管内凝固症候群)や急激な血小板低下がない
- 重篤な腎不全がない
- 妊娠していない
- 本薬の臨床的利益が得られる生存期間が期待できること
ストロンチウム内用療法を行う前に、上記の条件を満たしているかの確認のための血液検査や、骨転移にきちんと薬剤が集積するかを確かめるために骨シンチを行う必要があります。
また、骨髄抑制をきたすような化学療法や放射線治療を行っている、あるいは今後行う予定のある場合には慎重に適応を考える必要があります。
ストロンチウム89内用療法の副作用
ストロンチウム89投与後、一時的に白血球や血小板が減少することがあります。
また、一部の患者さん(5-15%)で投与後2-3日で一時的(数日間)に疼痛が強くなることがあります。