定位放射線治療について
定位放射線治療とは
通常の外照射よりも高い精度で位置決めを行い、放射線を病変の形状に正確に一致させて3次元的に集中照射する放射線治療です。周辺の正常組織の被曝を減らしながら病変に高い線量を照射することが可能になります。
慶應大学病院では1990年代初めより定位放射線治療の研究を始め、他施設に先駆けて国内では早い時期に治療を開始しました。病変の種類、部位によって、大線量を一回で照射する方法(SRS:stereotactic radiosurgery)と複数回に分割して行う方法(SRT:stereotactic radiotherapy)があります。複数回に分割する場合も通常の外照射に比べて治療期間は短くなることが多いです。
どのような疾患に有効?
定位照射は転移性脳腫瘍その他の頭蓋内悪性腫瘍、聴神経腫瘍などの良性腫瘍、肺、肝など体幹部腫瘍にも適用が拡がっています。
基本的にはあまり大きな腫瘍や多発する腫瘍には向かず、3~4cm程度以内の大きさの病変に優れた治療効果を発揮します。
当院では主に下記の疾患に対して定位照射を行っています。
- 転移性脳腫瘍などの頭蓋内腫瘍
- 原発性肺癌、転移性肺腫瘍
- 肝腫瘍
一回照射と分割照射
定位放射線治療には一回で照射を行う方法(Stereoractic Radio Surgery:SRS)と、複数回に分けて照射を行う方法(Stereotactic Radio Therapy:SRT)があります。
通常の放射線治療は、1回で治療するのでなく複数回にわけて治療します。これは、正常細胞と腫瘍細胞とで放射線による細胞のDNA障害に対する修復力が異なることを利用したものです。正常細胞であれば、低い線量を照射された時のDNA障害を修復することができますが、腫瘍細胞では修復しきれず、細胞死に至ります。しかし、高線量を一度に照射すると正常細胞も障害を修復できず、細胞死に至ってしまいます。
一方で、定位放射線治療の場合は、正常組織の照射体積が通常の放射線治療よりも小さくて済むため、病変の部位・大きさによっては分割せず一回の照射でも安全に治療ができる場合があります。
しかし、定位放射線治療でも、照射により重大な障害を引き起こす可能性のある重要な臓器が近接している場合や標的の体積が大きい場合など、分割での照射を行った方がよい場合もあります。この根拠に基づいて行われます。しかし、分割治療では複数回の治療で照射位置にずれが生じないようにするための固定法に工夫が必要となります。
頭部定位放射線治療
転移性脳腫瘍やその他の頭蓋内悪性腫瘍、聴神経腫瘍などの良性頭蓋内腫瘍が治療対象となります。
詳しくは下記をご参照ください。
体幹部定位放射線治療
原発性肺癌や転移性肺腫瘍、肝腫瘍を主な対象としています。 ただし、上記疾患ならどのような場合でも治療できるわけではなく、基本的にはリンパ節転移などのない、比較的小さな腫瘍に限られます。
早期の肺癌に対する定位放射線治療は十分な線量を照射できた場合8-9割程度の局所制御率が得られるとされています。
詳しくは下記をご参照ください。
治療精度管理
高精度の治療をおこなうためには位置的精度を保証する方法が特に重要であり、定位照射に必要な位置精度・再現性を確保するための固定法、QA(品質保証)法が必要になります。
当院では、歯形を用いた頭部固定フレームや、体幹部固定のための専用のボディフレームを使用して位置精度を確保しています。また、実際の治療の際には毎回治療室内でCTやポータル画像による位置精度の確認を行っています。