光超音波イメージング (Photoacoustic Imaging)の臨床応用

~血管・リンパ管疾患への挑戦と診断イノベーション

1.従来の診断・治療の課題

リンパ浮腫診断

リンパ浮腫は、進行するとQOLを著しく低下させる慢性疾患である。その外科的治療であるリンパ管細静脈吻合術(LVA)は有効性が高い一方で、手術の成功は、直径わずか0.5 mm程の微細なリンパ管と静脈の正確な同定に依存する。従来の術前計画は、外科医の目視や経験に頼る部分が大きく、術者依存性が高かった。

下肢静脈瘤診断

下肢静脈瘤の従来の診断や治療効果判定は、客観的かつ定量的に評価する手段に乏しく、主観的な評価や経験に基づく「術者依存」の側面が強かった。エビデンスに基づく治療の標準化を妨げる要因となっていた。

2. 診断のフロンティア:PAIへの参画

これらの重要な課題を解決するため、我々は、従来の形態イメージングを超え、生体の「機能」や「分子」情報を捉える必要があると考えている。上記の課題に対し、光超音波イメージング(PAI)が有用なイメージング技術の候補と考え、形成外科・解剖学教室主導の臨床応用の検討に参画している。

光超音波イメージングの原理の簡略図

PAIは「行きは光、帰りは超音波」という独自のハイブリッド原理に基づき、光の高コントラストと超音波の高分解能を融合させる1)。この技術は、光吸収という異なる物理原理でコントラストを得るため、既存のモダリティでは捕捉不可能な情報を提供可能である。

当教室は、この技術の臨床的意義をいち早く見出し、内閣府主導の革新的研究開発推進プログラム「ImPACT*」プロジェクトにも関わっている。

3. PAIを用いた臨床研究

リンパ浮腫 LVA術前マッピングの変革

PAIは、インドシアニングリーン(ICG)とヘモグロビンの光吸収波長が異なることを利用し、血管(ヘモグロビン)とリンパ管(ICG)を同時に、かつ3次元で分離可視化することができる。我々は、ヒトのリンパ液の流れをPAI技術で捉えることに世界で初めて成功した。

これにより、従来の外科医の経験に頼るのではなく、放射線科医が術前に極めて正確なリンパ管と静脈の3次元マッピング情報を提供できるようになった。この貢献は、LVA手術の不確実性を大幅に低下させ、術後の四肢容積減少率の有意な改善に直結している。

光超音波イメージング画像例 (Urano et al., J Med Ultrason, 2024)
(a) 下肢静脈瘤患者の下肢撮像例, (b) (a)の拡大図. 0.2mm程度の細い血管も可視化

② 下肢静脈瘤診断の定量化

PAIを用いて下肢静脈瘤における微細血管の存在密度を定量化できることを示した3)。これは、従来の形態画像では困難だった病変の重症度や治療効果を、客観的な数値データに基づき評価することを可能にする。

4. 診断イノベーションの牽引

PAIは、形態情報に加え、分光イメージングにより酸素飽和度といった「機能のカラーマップ」を定量的にマッピングできる、極めて発展性の高い技術である。現在、医療機器承認を取得された装置(Luxonus社のLME-01)を既に導入し、さらなる臨床応用と研究を精力的に進めている。

Luxonus社 LME-01

* ImPACT 革新的研究開発推進プログラム(Impulsing Paradigm Change through Disruptive Technologies Program)。実現すれば産業や社会に大きな変革をもたらす、ハイリスク・ハイインパクトなイノベーション創出を目指した内閣府の研究開発制度。

1) Nagae K, et al. Real-time 3D Photoacoustic Visualization System with a Wide Field of View for Imaging Human Limbs. F1000Res. 2018 Nov 19;7:1813.

2) Kajita H, et al. High-Resolution Imaging of Lymphatic Vessels with Photoacoustic Lymphangiography. Radiology (2019). Jul;292(1):35.

3) Urano M, et al. Visualization and quantitative evaluation of microvessels in lower extremity varicose veins using photoacoustic imaging. J Med Ultrason (2001). 2024 Jan;51(1):145-154.

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