藤浪剛一教授のウィーン留学中の論文

藤浪剛一は1909年(明治42年)~1913年(大正2年),ウィーン大学に留学し,当時の放射線科の中心として研究,診療に携わっていたRobert Kienböck(1871-1953),Guido Holzknecht(1872-1931)らの指導を受けているが,この間に8編の論文を著している.以下に,これを紹介する(文献の調査,収集に御協力いただいた慶應義塾大学信濃町メディアセンターのスタッフ各位に深謝する).

Über die Ossifikation der Handwurzelknochen

手根骨の骨化について

Fortschritte auf dem Gebiete der Röntgenstrahlen 1911;17:311-8

手根骨の正常骨化順序の検討.約200例の正常小児のX線所見をもとにした分析.記載されてい骨核出現時期は,現在の教科書に記載されている骨年齢表とほとんど変わらない.藤浪は帰国後,足根骨についても同様の研究を行っている.

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Über die Ossifikation der Handwurzel bei Rachitis

くる病における手根骨の骨化について

Zeitschrift für Röntgenkunde 1912;14(1);1-10

くる病42例について,手根骨の骨核の出現時期を検討している.内18例は文献によるもので,メタ分析となっている.当時,くる病では骨化の遅延はないという説もあったが,遅延があること,年齢が進むにつれて顕著になることを示している.


和訳

Über den Wert säurefester, sichtbarer Boli für die Röntgenuntersuchung des Pylorus und die Brauchbarkeit der Glutoid- und Geloduralkapseln

幽門X線検査における耐酸性可視性錠剤の意義とグルトイドカプセル,ゲロデュラクトカプセルの有用性

Fortschritte auf dem Gebiete der Röntgenstranlen 1911;18(3):221-5

造影剤を含むカプセルを内服して追跡することにより,機能的あるいは器質的幽門通過障害を診断する方法について,カプセルの物理化学的性状と病態との関連を論じている.

  和訳

Über eine einfache Methode zur röntgenologischen Ermittlung der Saftsekretion im speiseleeren Magen
(kontinuierliche Sekretion: Parasekretion)

X 線による空虚胃の胃液分泌の簡便な検査法(持続性胃液分泌:異常胃液分泌)

Deutsche Medizinische Wochenschrift. 1912;38(11) 496-501

水に浮くもの,沈むもの,2種類の造影剤含有カプセルを投与し,両者の位置関係をX線透視で観察することにより胃液量を推定する方法について,具体的に詳述している.藤浪は帰国後,本編を主論文として東京帝国大学から医学博士の学位を授与されている.

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Pylorospasmus, Hypersekretion, Motilitätsstörung. Zur Frage ihrer genetischen Zusammenhänge

幽門痙攣,胃液分泌過剰,胃運動機能障害 - その因果関係

Deutsches Archiv für klinische Medizin. 1912;105:449-459

前掲2編の論文を背景として,胃の造影X線検査所見から,胃の運動機能障害や胃液分泌異常の病態を考察したもの.論旨が錯綜して理解しにくい面があるが,当時,X線検査による機能的診断に大きな関心が払われていたことがわかる.

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Ein Fall von Fraktur der Beckenpfanne mit Luxatio coxae centralis

中心性股関節脱臼を伴った寛骨臼骨折の1 例

Wiener Klinische Rundschau 1910;24(29) 450, 24(30) 463-4, 24(31) 482-3

中心性股関節脱臼の症例報告.まだX線診断が確立しておらず,所見そのものよりもその有用性について論じる部分が多い.病歴や臨床所見の記載も現在とはかなり異なり興味深い.

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Eine neue Methode für die Therapie des Lupus des Kehlkopfes mittels Finsenlampe (Parallelstrahlenbehandlung)

フィンゼン灯による喉頭結核の新しい治療法 (平行光線療法)

Archiv für Dermatologie 1912;113:365-72

当時,皮膚結核に対する自然光による太陽光線療法が広く行われており,これを人工光源にかえて喉頭結核に応用する上での工夫や治療成績を,他験例をふくめて検討している.藤浪は放射線のみならず,光線一般,温熱などに幅広い関心を示し,帰国後もそれを診療に生かしている.

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Die Medizin in Japan

日本の医学

Schweizerische Rundschau für Medizin. 1912;4(1):7-12

江戸時代の西洋医学の伝来の様子を要約するとともに,明治時代の日本の医学教育,医療の現状を紹介したもの.藤浪は医史学者としても多くの著作を残しているが,欧文のものはこれが唯一と思われる.

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