IVRグループの研究
― 豊富な臨床基盤から生まれる先導的研究 ―

慶應義塾大学医学部放射線診断科IVRグループでは、長年にわたり蓄積してきた膨大な臨床経験を基盤として、画像下治療(Interventional Radiology: IVR)の安全性・有効性を検証する臨床研究と、将来のIVR医療を見据えた基礎・トランスレーショナル研究の両輪で研究活動を行っています。 当教室におけるIVRの累積症例数は2025年に5万件に到達しました。これは単なる症例数の多さを示すものではなく、血管IVR・非血管IVRを含む多領域のIVRを、一つの診療科が長期間にわたり継続的に担ってきた結果です。このような臨床基盤があるからこそ、日常診療の中で生じた疑問を研究として発展させ、再び臨床に還元するというサイクルが可能となっています。

IVR研究を志す研修医・医学生の皆様へ

IVR(Interventional Radiology)は、画像診断に基づく正確な解剖理解と、デバイスを用いた治療技術、そして臨床現場での判断力が融合する、極めてダイナミックな分野です。当教室のIVRグループでは、日常診療として行われている多領域・高難度IVRを基盤に、臨床研究と基礎研究の両面からIVRの発展に取り組んでいます。

臨床研究においては、画像ガイド下ドレナージや生検、塞栓術、凍結治療、リンパ系IVR、門脈・肝移植関連IVR、血管腫/血管奇形治療など、日々の診療で直面する「なぜうまくいったのか」「どこにリスクが潜んでいるのか」という疑問を出発点として研究が進められています。これらの研究は、豊富な症例集積があって初めて可能となるものであり、臨床の最前線で得られた知見を、エビデンスとして発信することを目指しています。研修医・若手医師にとっては、診療と研究が乖離することなく、日常診療そのものが研究につながる環境であることが大きな特徴です。

一方、基礎研究では、IVR医が臨床現場で感じてきた未解決の課題を出発点として、血管内治療デバイスそのものを進化させるトランスレーショナル研究を行っています。血管内皮コロニー形成細胞を用いた生体外内皮化ステントの研究は、「治療を行う側」から「新しい治療を創る側」へと踏み出すことができる研究フィールドです。基礎研究の経験がない方でも、臨床的視点を活かしながら段階的に研究へ参加できる体制が整っています。

IVRは、今後も適応が拡大し続ける分野であり、診療と研究の双方において大きな可能性を秘めています。

「臨床の中で生まれた疑問を、自らの手で解決したい」
「IVRを通じて、これからの医療を支える新しい技術を創りたい」

そのような思いを持つ研修医・医学生の皆さんとともに、IVRの未来を切り拓いていけることを、私たちは心から楽しみにしています。

IVRとは?当科診療ページをご覧ください;http://rad.med.keio.ac.jp/mission/medical-2/

臨床研究

― 日常診療から生まれるエビデンス ―

■ 臨床現場を出発点としたIVR研究

当教室のIVRに関する臨床研究の多くは、日常診療として行われているIVR手技の安全性、有効性、再現性を検証する後ろ向き観察研究や症例報告、レビューとして進められています。IVRは患者背景や病態の多様性が大きく、ランダム化比較試験が必ずしも現実的でない領域も多いため、高品質な症例集積に基づく臨床研究そのものが重要なエビデンスとなります。これらは、いわゆる「研究のための症例収集」ではなく、臨床現場で直面する課題を出発点とした研究である点が大きな特徴です。

IVRは、がん治療や救急医療、移植医療、周術期管理、緩和医療など、さまざまな診療科の治療戦略を支える横断的な医療技術です。そのため、当教室の臨床研究には、放射線診断科単独で主導する研究に加え、他診療科が主導する臨床研究の中で、IVRを放射線科が中核的に担い、その成果が論文化されているものも数多く含まれます。これは、IVRが当院の医療の中に深く組み込まれていることの一つの表れでもあります。

■ 画像ガイド下ドレナージ・胆道系IVRの研究

当教室では画像ガイド下ドレナージや非血管IVRに関する研究を積極的に行っています。胆道系IVRにおいては、軸穿刺(axial puncture)法による経皮経肝的胆道ドレナージを中心に、安全性と有効性の検証を行っています。術後胆道合併症や移植関連胆道病変など、高度専門医療を支えるIVRへの応用も視野に入れた研究が進行中です。またCT透視画像を用いて患者さんの尾側方向から病変にアプローチする穿刺方法(Z-Axis puncture technique)についての検討や、古くから存在するトロッカー法という穿刺方法の課題を克服すべく製品を改良し、新たな製品(CTガイド下ドレナージキット, Drainaway)として世に出すといった臨床研究は、穿刺・ドレナージの確実性と安全性を高めるために、臨床現場から生まれたものです。これらの研究は、重症感染症や術後合併症など、「確実に成功すること」が強く求められるIVRを対象としており、IVRが治療だけでなく「医療を支える技術」として果たす役割を明確に示しています。

  • Yoshikawa H et al., Drainage of Subphrenic Abscess with CT Fluoroscopy-Guided Z-Axis Puncture Technique. J Vasc Interv Radiol. 2025 Sep 12;37(3):107843.
  • Togawa K et al., Computed Tomography-guided Drainage with Modified Trocar Technique Using a Drainaway Drainage Kit. Interv Radiol (Higashimatsuyama). 2023 Aug 11;8(3):130-135.

経皮的塞栓術の臨床研究

当教室では、内臓動脈瘤、出血性疾患、肺動静脈瘻、産科出血、喀血などに対する経皮的塞栓術の有用性と治療戦略に関する検討を行っています。単に塞栓できたかどうかではなく、病態に応じたアプローチ選択、カテーテル操作、塞栓物質の使い分けが治療成績にどのように影響するかを、後方視的に評価しています。例えば塞栓術の一つである産科出血に対するIVR治療の有効性に関する検討は、緊急性と全身管理を要するIVRにおいて、放射線科が果たす役割の重要性を示しています。

  • Tsukada J et al., Interventional therapeutic strategy for hemoptysis originating from infectious pulmonary artery pseudoaneurysms. J Vasc Interv Radiol. 2015 Jul;26(7):1046-1051.e1.

画像ガイド下凍結治療(Cryoablation)に関する研究

近年、画像ガイド下凍結治療は、低侵襲性と治療効果の両立が期待される治療法として注目されており、今後さらなる適応拡大が見込まれるIVR手技の一つです。当教室ではこれまで、肺腫瘍に対する凍結療法を中心に、基礎研究および臨床研究を複数論文として報告してきました。これらの研究では、凍結条件や腫瘍制御、周囲臓器への影響などについて詳細な検討が行われており、現在進められている凍結治療の適応拡大や治療戦略の構築に大きく寄与していると考えられます。

現在、当院ではさまざまな臓器・腫瘍に対する凍結治療が臨床的に実施されており、これらの症例集積を基盤として、治療適応、局所制御、安全性、合併症に関する体系的な臨床研究が進められています。凍結治療は、今後のIVR診療の幅を大きく広げる可能性を秘めた分野であり、当教室における重要な臨床研究テーマの一つとして位置づけられています。

  • Yashiro H et al., Factors affecting local progression after percutaneous cryoablation of lung tumors. J Vasc Interv Radiol. 2013 Jun;24(6):813-21.
  • Ito N et al., Computed tomographic appearance of lung tumors treated with percutaneous cryoablation. J Vasc Interv Radiol. 2012 Aug;23(8):1043-52.
  • Inoue M et al., Percutaneous cryoablation of lung tumors: feasibility and safety. J Vasc Interv Radiol. 2012 Mar;23(3):295-302; quiz 305.
  • Nakatsuka S et al., On freeze-thaw sequence of vital organ of assuming the cryoablation for malignant lung tumors by using cryoprobe as heat source. Cryobiology. 2010 Dec;61(3):317-26.

リンパ漏、血管腫/血管奇形、肝移植関連などの高難度IVR

リンパ漏、血管腫・血管奇形、肝移植関連手技、オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)に伴う多発肺動静脈瘻に対するIVR治療などは、いずれも高度な解剖学的理解と熟練したIVR技術を要する高難度領域であり、限られた施設でのみ継続的に診療・研究が行われています。当教室では、これらの領域に対するIVRを担ってきた臨床基盤を活かし、診療実績に基づいた臨床研究を進めています。

リンパ漏に対するIVR治療では、リンパ管へのアクセス方法や塞栓手技の工夫に関する知見を蓄積してきました。現在は、治療成績だけでなく、治療後に生じうるリンパ浮腫などの合併症や長期転帰を含めた包括的評価を行う研究へと発展しています。これらは、単なる技術報告にとどまらず、リンパ系IVRを安全に継続するための基盤構築を目的とした研究です。

血管腫・血管奇形に対するIVRでは、病変の血行動態や解剖学的特徴に応じた塞栓戦略やアプローチ選択が治療成績に大きく影響します。当教室では、難治性症例や再発症例を含む症例集積を背景に、血管腫・血管奇形に対する最適な治療戦略の検討を行っています。これらの研究は、標準化が難しい領域において、IVR医の判断プロセスを可視化する試みでもあります。

また、肝移植関連IVRは、移植医療という高度専門領域を支える重要な役割を担っています。術後胆道合併症や血管合併症に対するIVR、移植前後の周術期管理に関わる手技など、他診療科と密接に連携したIVR診療を背景に、治療の安全性と有効性を検証する臨床研究が進められています。

  • Tsukada J et al., Incidence and Clinical Course of Lower Limb Lymphedema after Intranodal N-Butyl-2-Cyanoacrylate Embolization for Postoperative Lymphorrhea. J Vasc Interv Radiol. Articles in Press, 108541, 2026 January 21.
  • Inoue Met al., Lymphatic Intervention for Various Types of Lymphorrhea: Access and Treatment. Radiographics. 2016 Nov-Dec;36(7):2199-2211.

■ 肝細胞癌・肝胆膵領域IVRの継続的検証

肝細胞癌に対するIVRは、すでに成熟した治療分野である一方、カテーテル選択、塞栓物質、IVR-CTなどの画像支援技術が治療成績や安全性に与える影響については、なお検証すべき課題が残されています。当教室では、こうした臨床的疑問に対し、詳細な画像評価と症例解析を通じた研究を継続しています。

今後は、肝移植関連IVRや、肝部分切除前に施行される経皮経肝門脈塞栓術や肝静脈塞栓術など、高度専門医療を支えるIVRに関する研究も進めていく予定です。

  • Taniki N et al., Advantage of Scheduled Upfront Lenvatinib Administration Followed by Transarterial Chemoembolization Therapy Over Lenvatinib Monotherapy in Patients With Unresectable Intermediate-Stage Hepatocellular Carcinoma: A Multicenter Cohort Study. Cancer Med. 2026 Jan;15(1):e71503.
  • Tabuchi T et al., Continuation of atezolizumab plus bevacizumab beyond initial progressive disease: clinical benefits in patients with unresectable hepatocellular carcinoma – a multicenter cohort study. Front Immunol. 2025 Sep 11;16:1653456.
  • Kasuga R et al., Multiple asynchronous recurrence as a predictive factor for refractoriness against locoregional and surgical therapy in patients with intermediate-stage hepatocellular carcinoma. Sci Rep. 2024 May 13;14(1):10896.
  • Tamura M et al., Portal Vein Damage after DEB-TACE and Lipiodol-TACE: Based on Evaluation by Computed Tomography during Arterial Portography. Interv Radiol (Higashimatsuyama). 2021 Nov 1;6(3):93-101.

■ 症例報告が示すIVRの本質

当教室から報告されている症例報告の多くは、標準的手技では対応が困難な症例に対し、画像情報に基づいた血管解剖や病態を深く理解した上で工夫されたIVRを扱っています。これらは単なる「稀な症例」ではなく、困難症例を日常的に引き受け、その中から知見を発信してきた施設文化を反映したものです。

  • Ogawa R et al., Novel inferior gluteal artery access for successful type 2 endoleak embolization enabling the access site hemostasis by manual compression: A case report. Radiol Case Rep. 2025 Nov 13;21(2):543-547.
  • Nakajima Y et al., Secondary arteriovenous malformation due to subclavian vein occlusion. Radiol Case Rep. 2022 Jul 29;17(10):3591-3594.
  • Iwasawa S et al., A Case of Severe Biliary Anastomotic Stricture after Living Donor Liver Transplantation Successfully Treated Using the Modified Gunsight Technique with Two Balloon Catheters. Interv Radiol (Higashimatsuyama). 2021 Jul 1;6(2):65-68.
  • Yuzaki I et al., Arteriovenous malformation on the sole of the foot treated successfully by embolization. Radiol Case Rep. 2020 Oct 12;15(12):2621-2626.
  • Tamura M et al., Transhepatic Arterial Approach for Successful Embolization of Hepatic Hilar Pseudoaneurysm Fed by Tortuous Collateral Vessels. J Vasc Interv Radiol. 2016 May;27(5):768-70.

基礎研究

― IVR医が主導する血管内治療デバイスの
トランスレーショナル研究 ―

■ ECFCコーティングステント研究

当教室では、IVR医が日常診療で直面してきた未解決の臨床課題を出発点として、血管内治療デバイスの本質的改良を目指す基礎・トランスレーショナル研究を進めています。その中核となるテーマとして、血管内皮コロニー形成細胞(Endothelial Colony-Forming Cells:ECFC)を用いた生体外内皮化ステントの開発に着手しています。薬剤溶出性ステント(Drug-Eluting Stent:DES)は、再狭窄を抑制する一方で、内皮化の遅延を招き、急性期血栓閉塞および遅発性・超遅発性ステント血栓症という致死的合併症の原因となり得ます。そのため、DES 留置後には長期間の二剤併用抗血小板療法(DAPT)が必要とされますが、高齢者や出血リスクの高い患者では大きな負担となります。

本研究では、患者自身の末梢血から分離・培養した ECFC をステント表面に生体外で直接塗布・内皮化することにより、血管留置直後から血栓形成を抑制する「Cell-Shield Stent」という新しい概念を提案しています。これは、生体内で内皮化を待つ従来のアプローチとは異なり、内皮化された状態でステントを血管内に留置するという点に本質的な新規性があります。

  • Tsukada J et al., Development of In Vitro Endothelialised Stents – Review. Stem Cell Rev Rep. 2022 Jan;18(1):179-197.
  • Tsukada J et al., Development of in vitro endothelialized drug-eluting stent using human peripheral blood-derived endothelial progenitor cells. J Tissue Eng Regen Med. 2020 Oct;14(10):1415-1427.

■ 動脈領域におけるECFC塗布DESの前臨床研究

本研究では、動脈領域を対象として、ECFC塗布DESの抗血栓性と血管内適合性を検証しています。ヒトの血管径・生理学的条件に近いゲッチンゲン系ミニブタを用いた前臨床動物モデルにおいて、ECFC塗布DESと非塗布DESを同一個体内で比較留置し、抗血小板薬を最短期間だけ投与した状態における血管開存性、血栓形成、炎症反応、内皮化の進行を詳細に評価しています。

血管造影による画像評価に加え、非石灰化研磨標本を用いた病理学的解析を行うことで、ステントストラット上の内皮被覆率や炎症細胞浸潤を定量的に評価しようと試みています。

■ 門脈という「低血流環境」への挑戦

さらに本研究は、門脈という動脈とは本質的に異なる血行動態を有する領域へと展開しています。門脈狭窄・閉塞は、腫瘍浸潤、術後癒着、炎症などにより生じ、大量腹水、腸管浮腫、静脈瘤形成や出血といった重篤な合併症の原因となります。近年、経皮的門脈形成術におけるステント留置の有効性が報告されつつありますが、血流が遅く、鬱血しやすい門脈環境では、ステント内血栓による早期閉塞が大きな問題となっています。

抗凝固薬や抗血小板薬の使用が推奨される場合もありますが、門脈圧亢進症や消化管静脈瘤を有する患者では、出血リスクのためこれらの薬剤を使用できないケースも少なくありません。このため、薬物療法に依存しない門脈用ステントの抗血栓性向上が強く求められています。

本研究では、動脈領域で培ってきたECFC生体外内皮化技術を門脈領域に応用し、ECFC 塗布ステントが低血流環境下においても優れた抗血栓性と開存性を示すかを、ミニブタ門脈を用いて検証しています。これは、ECFC塗布ステントを門脈に適用する世界的にも新しい試みであり、血管内治療の適応領域を大きく広げる可能性を有しています。

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