医学物理研究:放射線治療の物理的基盤を対象とした研究

原子から分子、そして臨床へ
― ナノスケール線量評価に基づく次世代高精度線量計算の構築 ―

モンテカルロシミュレーションを中心に、計算科学・放射線物理学・放射線計測学を駆使して、次世代線量評価機構の構築に取り組んでいます。原子・分子のスケールによる線量評価からDNAレベルのシミュレーション、臨床応用までを一貫して探究し、精緻な線量計算基盤の開発を推進しています。さらに放射線検出器や計測回路などハードウェア系の開発や数理モデル・機械学習を用いた予測アルゴリズムの実装を通じて、治療計画の最適化と信頼性向上を実現し、患者ごとの個別化医療に貢献します。基礎研究から臨床まで幅広く挑戦できる学際的な研究環境で、次世代放射線治療の未来を切り拓いていきます。

EMSを用いた放射線治療中呼吸安定化装置の開発

放射線治療中に呼吸を安定化させることは、照射野を小さく、精度良く、短時間に照射を行うために重要です。既存の装置としては、呼吸周期の一部だけに照射を行う装置や、呼吸変動する腫瘍を追尾する装置、息止めを援助する装置があります。しかし、呼吸のリズムはしばしば不安定で、既存の装置のパフォーマンスに望ましくない影響を与えますが、侵襲性が少なく、呼吸そのもののリズムを安定化させる装置は存在しません。そこで本研究では、電気的筋肉刺激(EMS: electric muscle stimulation)を用いて腹筋に通電することで呼吸リズムを誘導し、安定化を図る装置を開発します。その後、ボランティアの協力を得て、呼吸リズムの安定効果や装着時の負担を評価し、社会実装に向けた有効性と実現可能性を検証します。

立位放射線治療研究

従来の放射線治療は、患者さんを仰向けに固定して、腫瘍を中心に治療装置が回転しながら照射する方法が一般的です。一方、立位放射線治療は、患者さんを座らせ、椅子ごと回転して照射する方式です(立位のこともあります)。この方法では、治療装置の簡素化やコスト削減、治療中の快適性向上、線量分布が改善するなど、多くの利点が期待されます。当大学放射線診断科では世界初の立位CT装置を開発し、社会実装しました。本研究ではそのデータを活用し、立位放射線治療のシミュレーション解析を行います。具体的には、同一患者の立位と臥位CTで、解剖学的変化や線量分布比較を解析することで、立位放射線治療の実現可能性を検証します。このようなデータを保有する施設は世界的にも稀であり、将来の放射線治療の発展に大きく寄与すると期待されます。

科研費 基盤 (B) 研究課題/領域番号: 立位CTを用いた重力下での人体の解析と未来医療への応用 / 25K03440 (研究分担者)

放射線治療計画AI支援ソフトウェアの開発

近年の放射線治療技術の高度化に伴い、放射線治療計画の作成にかかる人的・時間的コストが増加しています。このような状況下では、大学病院やがんセンターなど豊富な症例経験を有する多くのスタッフの在籍するハイボリュームセンターと症例数や人員が限られる中小規模の市中病院において、放射線治療の質に差が生じる可能性があります。結果として、治療成績や有害事象に影響を及ぼす可能性もあります。放射線治療が高度化した現在、業務負担の軽減と質の均てん化が課題となっています。
当教室では、アイラト株式会社と共同研究を行い、当院で放射線治療を行った症例を学習したAIを用いて①腫瘍とリスク臓器輪郭の自動抽出システム、②適切な放射線治療計画の線量分布予測システム、③安全性検証結果予測システム、④治療効果と投与線量を予測するシステムを担うソフトウェアを開発しています。これらのAI支援技術により、国内外の放射線治療施設の業務負担の低減や均てん化を目指します。

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