レントゲンのX線発見

W.C. Röntgen
(1845-1923)

最初の論文の手稿

妻ベルタ夫人の手

1895年,レントゲンはX線を発見したが,これに関するレントゲン自身による論文はわずか3篇である.それも正式な論文というよりも,いずれも今で言う研究速報のような形式である.レントゲンは人前で話すのが苦手で,後年の講演はさんざんなものだったというエピソードが残っているが,論文はきわめて簡明な文体で論理的に書かれている.

第1報

W. C. Röngten. Über eine neue Art von Strahlen (Vorläufige Mittheilung)

新種の光線について (速報)

Sitzungsberichte der Physikalisch-Medizinischen Gesselschaft zu Würzburg. 1895;S132

1895年12月28日,学会誌に投稿され,速報(暫定報)と付記されている.物体を透過する光線を発見したこと,これをX線と呼ぶことが書かれ,いろいろな物体をX線の前にかざしてみて,その透過性が異なることを示す実験が記載されている.この論文には,1枚の写真も掲載されていない.レントゲンは,1896年1月1日この論文の別刷を研究者約90人に郵送しているが,このとき3枚の写真を同封しており,有名なベルタ夫人の指輪をした手の写真もその1枚である.印刷の段階で,大発見がリークする危険を考えてこのような方法をとったとも言われている(和訳稿にはその写真も含めて紹介した).
原文 和訳

第2報

Über eine neue Art von Strahlen (II. Mittheilung)

新種の光線について(第2報)

Sitzungsberichte der Physikalisch-Medizinischen Gesselschaft zu Würzburg. 1896;S10

1896年3月9日,同じ雑誌に投稿された.続報としてその後の実験の進捗を記載しているが,特に帯電した電荷をX線が放電する作用があること,すなわち電離作用について記載されており,空気も電離することが既に示されている.
原文 和訳

第3報

Weitere Beobachtungen über die Eigenschaften der X-Strahlen

X線の性質に関する更なる観察

Sitzungsberichte der Königlich Preußischen Akademie der Wissenschaften zu Berlin. 1897: Erster Halbband:576-592

1897年3月10日に,別の雑誌に投稿されたもので,過去1年間に加わった新たな知見についてまとめている.ここでは主に放電管(管球)の性能によるX線の違いが議論されている.放電管が硬い(=真空度が高い,hart),軟らかい(=真空度が低い, weich)という表現が使われており,現在でも使われる線質を表す表現の初出と考えられる.実験装置の説明図が1葉掲載されているが,これはレントゲンの論文中唯一の図譜である.
原文 和訳

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