研究

医局の研究の足跡(領域別)

1)循環器領域

 循環器画像診断は,2000年以降にCTやMRIなどの非侵襲的検査法が急速な進歩を遂げました.2000年に教授として赴任した栗林幸夫の専門が循環器であったことから,当科は心臓CTに黎明期から関わり,撮影法,造影剤投与法,画像表示法,被曝低減などの検査法の確立および診断能の検討をおこなってきました.冠動脈CTの表示法として国際的に広く用いられているAngiographic viewは,当科から発信したものです(1,2).また,国内多施設共同研究 (3)において経静脈投与β-blockerの有用性を検証し、冠動脈CTのワークフローは大きく改善されていきました.これらの研究を通して、冠動脈CTが侵襲的冠動脈造影を置換していくことに貢献してきました.attenuated plaqueなどの不安定プラークの研究も行いました (4).虚血診断については、国際多施設共同研究にかかわり,CT潅流画像での診断能を検討したCore 320 study (5-7)やfractional flow reserve(FFR-CT)の診断能を検討したNXT trail(8)などに関わり、心臓CTのエビデンスレベルの向上に貢献してきました.また,2倍の空間分解能をもつ実験機CT,2重エネルギーCT,4次元CTのような新技術の検討も行い,基礎から臨床まで幅広い研究を行ってきました (9-11).2008年ごろの国内の冠動脈CT加算の申請や,2017年のFFRCT保険収載,2019年の保険点数を決めることにおいても主導的役割を果たしました.

 心臓MRIでは,一般的に行われる心機能評価や遅延造影による心筋性状評価に加えて,心筋虚血の検出や,肺高血圧症や先天性心疾患術後における右室機能評価に,MRIが有用であることを検証してきました (12).また,新しい3Dシネ(動画)撮像法により,検査時間を短縮する試みも行いました (13)(図3).近年では,4D flow による3次元+時相ごとの血流量・流速解析や(図4),心筋T1マッピング(図5)などの撮像技術を取り入れ,あらたな心大血管領域の画像評価に取り組んでいます.

 心臓核医学では,従来の心筋虚血を検出する心筋血流SPECTに心電図同期法が1990年代後半に追加されるようになり,2000年代にこの手法が周術期における心血管リスク評価に有用であることを報告しました(14,15). また,2012年には当院でSPECT/CTが導入され,心筋血流SPECTとCTとを同時にブルズアイ表示する手法を世界ではじめて考案しました(16).

1. Circ J. 2006;70:1661-2[→], 2. Circ J. 2009;73:691-8[→],
3. Int J Cardiovasc Imaging. 2013;29 Suppl 1:7-20[→] ,
4. Circ J. 2012;76:1182-9[→], 5. Eur Heart J. 2014;35:1120-30[→],
6. Circ Cardiovasc Imaging. 2015;8:e002676 [→],
7. Radiology. 2017;284:55-65[→], 8. J Am Coll Cardiol. 2014;63:1145-55[→],
9. Phys Med Biol. 2011;56:5235-47[→], 10. Circ J. 2012;76:1799-801[→],
11. J Cardiovasc Comput Tomogr. 2014;8:391-400[→],
12. Circ J. 2012;76:1737-43[→],
13. Magnetic resonance imaging. 2015;33(7):911-7.
14. J Nucl Med. 2003;44:385-390, 15. Circ J. 2007;71:1395-1400
16. JACC Cardiovasc Imaging. 2016;9:703-11

2)上腹部領域

 肝疾患、特に肝細胞癌の画像診断は、日本の放射線科医が最も多く研究に携ってきたテーマと思われます。当科でも谷本伸弘が、MRIが導入された1980年代後半以降さまざまなMRI造影剤を駆使して、感度、特異度の高い肝腫瘍の診断をめざし、数多くの研究成果を発表してきました。その成果に対し、谷本伸弘は2002年に「肝臓のMRI造影剤に関する研究-特に超常磁性酸化鉄製剤の肝網内系組織との関連について-」というタイトルで慶應義塾大学医学部三四会北島賞を受賞しています。その後の研究も含め、肝特殊MRI造影剤を中心に以下のようなことを明らかにしてきました。

 超常磁性酸化鉄(superparamagnetic iron oxide: SPIO 商品名リソビスト)は1980年代から米国で開発が進んだ陰性造影剤で、肝の細網内皮系Kupffer細胞に貪食され、そのMR信号を低下させます。癌組織は細網内皮系を持たないので、肝に癌があると、癌は黒い背景肝中の白い点として描出されます。当科でSPIOのT2短縮効果とT2*短縮効果を本邦で初めて分離し、細網内皮系の機能と空間的分布を考察して鑑別診断に役立てました(1-3)。また、肝切除を前提とした術前検査では侵襲性のあるCTAP/HA(CT during arterial portography/hepatic arteriography)が基本的に活用されていましたが、SPIOの腫瘍検出能はこれに匹敵することを最初に明らかにし、やがてCTAP/HAはSPIOに置換されていきました(4)。また、SPIOを用いたMRIがメタボリック症候群の前駆者たる非アルコール性脂肪性肝炎NASHの診断に有用であることを明らかにし(5)、生検なしにNASHの診断が可能になりました。

 その後2007年頃に登場したGd-EOB-DTPA造影MRI(以下、EOB-MRI:商品名EOB・プリモビスト)は、動脈相においてリンギングといわれるアーチファクトがしばしば認められ、画質低下の一因となっていました。この原因の解明するために、computer simulationを用いた解析を行い、撮像matrixの形状がその一因となることを解明いたしました (6)

 また、EOB-MRIの日常臨床への普及に伴い、肝細胞相でのみ認められるような乏血性の小結節が多数見受けられるようになり、結節内の脂肪成分が多血性HCCのリスクとなることを解明しました (7)。

 さらに、病理学教室との共同研究にて、Gd-EOB-DTPAの肝細胞癌への取り込みに際して、OATP1B3という細胞膜トランスポーターが最も強く寄与する事を解明し、さらにこのOATP1B3の発現制御にWnt/β-catenin signalが強く関与していることを解明しました (8)。

1. J Mag Reson Imaging. 1994;4:653-57,
2. J Mag Reson Imaging. 2001;14:72-77, 3. Radiology. 2002;222:661-66,
4. Gastroenterol. 2005;40:371-80, 5. J Magn Reson Imaging. 2008;28:1444-50
6. Magn Reson Med Sci. 2012;11:91-7,
7. Magn Reson Med Sci. 2013;12:281-87,  8. J Hepatol. 2014;61:1080-87

3)消化管領域

 消化管のX線診断については,当科は特に長い伝統をもっています.放射線診断科の創設時のメンバーとして赴任された熊倉賢二教授は,生涯を胃の二重造影法の開発と早期胃がん診断技術の確立に捧げました.千葉大時代には,白壁彦夫・市川平三郎と共にその功績で朝日賞を受賞しており,わが国の消化管X線診断のパイオニアです.特に慶應赴任された後の1975年以降は,消化管X線装置,バリウム造影剤,前処置法,検査法のほとんどを当科から発信することになりました.これらの内容は,『図譜による胃X線診断学―基本所見の成り立ちと読影 (1968年 金原出版) 』及び『胃X線診断学 ー検査編ー(1993年 金原出版)』として上梓されています。二重造影法は,杉野吉則,今井裕らに受け継がれ,1988年に今井裕は”Radiographic diagnosis of small flat elevation of the large intestine and their clinicopathological significance.”と題する発表で北米放射線学会の最高賞であるMagna Cum Laudeを受賞しています.

 2000年代には、核医学を用いた消化管癌のセンチネルリンパ節診断の研究を先導してきました。特に、多施設共同研究により早期胃癌のセンチネルリンパ節の同定ならびに転移検出の精度が極めて高いことを証明しました(1)。また、早期胃癌の内視鏡術後においても応用できること(2)、早期食道癌においてもセンチネルコンセプトが成立しうることを報告し(3)、今後の適応拡大が期待される領域です。

 2000年代後半には,3次元CTによって大腸を検査するCTコロノグラフィー(CT colonography, CTC)や、クローン病や潰瘍性大腸炎など小腸・大腸におきる炎症性腸疾患を対象とした、MRエンテログラフィー(MR enterography, MRE)が登場してきました.当科では,これまでに積み重ねた歴史のもと,このCTCやMRE(4)に積極的に取り組み,従来の検査法と適切に使い分けることにより,患者さんにとってより負担の少ない,高精度の画像診断を提供できるよう,新たな検査法,画像表示法の開発を進めています.
1. J Clin Oncol. 2013;31:3704-10.  2.  Ann Surg Oncol. 2014;21:2987-93.
3. Ann Surg. 2009;249:757-63.   4. Abdom Radiol. 2017;42:141-151.

4)泌尿器領域

 泌尿器疾患は、血管造影や排泄性尿路造影などの造影X線法を始めとして、最も古くから画像が活用されてきた領域です。当科でも開設以来多くの先生方が専門として関わってこられました。1990年ごろまでの泌尿器画像診断は、充実性腎腫瘍に関しては脂肪を検出することで血管筋脂肪腫を診断することしかなく、不要な腎摘も少なくありませんでした。また、腎、尿路、前立腺において多くの疾患の第一選択が排泄性尿路造影(IVU)で、超音波検査も広く用いられていました。1990年以降、より低侵襲で効率よく高い診断能を得るようなCT・MRIを活用した診断アルゴリズムの構築を目指して、以下のような研究を行ってきました。

① 腎腫瘍の診断精度の向上
 1980年代の充実性腎腫瘍の診断基準は、脂肪成分が検出されれば血管筋脂肪腫と診断するというものしかなく、脂肪に乏しく筋成分豊富な血管筋脂肪腫(Fat poor AML)が腎癌と誤診されることが多かったです。そこで、我々は誤診された症例を検討し、単純CT高濃度でT2強調像低信号という所見が筋成分に該当することを初めて報告しました(1)(図1)。これと同時に、腎癌の超音波所見(2)やCT所見を解析し、腎癌では単純CT高濃度でT2強調像低信号という所見を呈するものは非常に少ないこと、腎癌のダイナミックCT所見は組織型により異なり多彩であるけれども(3)、造影早期相での不均一な濃染は腎癌を強く疑う所見であることを明らかにしました(図2)。このように、筋成分の検出という新たな視点を持ち込むことと腎癌の所見をよく知ることで腎腫瘍の診断能を向上させ、充実性腎腫瘍の診断学を構築しました。これ以降、腎腫瘍の画像所見について多くの研究が世界中で行われるようになり、我々も類上皮性血管筋脂肪腫の診断が可能であることを報告しています(4)。最近では、腎血管筋脂肪腫の新たな画像分類の提唱もおこなっており(5,6)、国際的にも普及しつつあります。当院では、小腎腫瘍において25%程度あると報告されていた良性腫瘍の不要な手術をほとんどなくすことができました。

② 尿路腫瘍の診断の効率化と低侵襲化
 上部尿路の検査は長く超音波と排泄性尿路造影で行われてきましたが、2000年ごろにMDCTが登場し、CTでの尿路評価(CT urography:CTU)が可能になりました。我々は、初期よりCTUの適切な検査法の確立に携り (7)、続いて、上部尿路腫瘍の診断においてCTUがIVUより優れることを検証し(8)(図3)、CTが上部尿路評価の第一選択になることを決定づけました。また、CTの造影早期相が膀胱腫瘍の検出を十分担えることを示し、侵襲のある診断的膀胱鏡を置換できる可能性を示しています(9)。CTUの現状については英文総説にわかりやすく記載をしています(10)。

③ 泌尿器領域のMRIの活用
 MRIが1990年以降に普及し始め、前立腺や膀胱の診断学に大きなインパクトを与えました。まず高いコントラスト分解能を活かして膀胱腫瘍の壁進達度診断においてダイナミック造影が有効であることを初めて示しました(11)。また、前立腺癌の診断において、T2強調像に拡散強調像とダイナミック造影所見を加味すると診断能が有意に向上することを示しました(12)。その後のmulti-parametric診断の走りになったと思われます。更に、2010年ごろまでは腎・上部尿路診断におけるMRIは、CTが施行できない場合の代替検査という消極的な位置づけでした。我々は,造影剤を用いなくて済む拡散強調像の有効性に着目し、透析腎癌の診断(13)、腎盂腫瘍の病期診断(14) において高い精度が得られることを明らかにしました。また、尿管腫瘍の良悪性の鑑別(15)に有用であることから、侵襲的な逆行性尿路造影を置換し得ることも示し(16)、CTに付加してMRIが担う積極的な役割を示しました。

 以上の内容は、実際の診療で活用されており、日本及び欧米のガイドラインにも盛り込まれております。また、日本の癌取り扱い規約やガイドラインの執筆に関わっています。これらの成果に対し、2013年には陣崎雅弘が「泌尿器画像診断アルゴリズムの構築」というタイトルで慶應義塾大学医学部三四会北島賞を受賞しています。診断アルゴリズムは、画像技術の進歩に伴い変遷しますので、現在も国際標準の確立に貢献することを目標に研究を続けています。

1. Radiology. 1997;205:497-502, 2. Radiology. 1998;209:543-50.
3. J Comput Assist Tomogr. 2000;24:835-42, 4. Int J Urol. 2013,20:1105-11.
5. Abdom Imaging. 2014;39:588-604
6. Semin Ultrasound CT MR. 2017;38:37-46, 7. Radiology. 2002;225:783-90,
8. AJR Am J Roentgenol. 2011;196:1102-9
9. AJR Am J Roentgenol. 2007;188:913-18, 10. Int J Urol. 2016;23:284-98
11. Radiology. 1992;185:741-7, 12. J Magn Reson Imaging. 2007;25:146-52
13. J Magn Reson Imaging. 2014;39:924-30
14. AJR Am J Roentgenol. 2011;197:1130-6
15. J Magn Reson Imaging. 2012;35:431-5, 16. Clin Imaging. 2018;52:208-15

5)婦人科領域

 婦人科領域の画像診断としてMRIは重要な役割を果たしています。これまで当教室では、産婦人科との協力の下、子宮頚がんの広がり評価における造影後T1強調像の有効性を検証しました(1)。また、子宮筋腫の血流評価も研究テーマのひとつです。MRIでは、ガドリニウム造影剤を静脈注射したのち、T1強調像における信号上昇で「染まる、染まらない」を判定しますが、これは血管量と、血管から細胞外スペースに漏れ出た造影剤量を反映した評価です。純粋な血管床量のみを評価するためには特殊な撮像方法を用いる必要があり、そのひとつが、ダブルエコーを用いたダイナミックR2*画像です。本法を子宮筋腫の血流評価に応用し、筋腫血流量とホルモン療法による縮小効果との相関を見いだし(2)、ホルモン療法後の筋腫血流変化を実測するなどの検討を行ってきました(3)。さらに、胎児のMRI撮像にも積極的に取り組んでおり、その臨床応用が始まった初期から、臨床経験を報告してきました(4-6)。

 核医学領域では、婦人科と共同研究でラジオアイソトープと色素を併用した場合に子宮体癌のセンチネルリンパ節同定率が100%であった点とともに、子宮体癌から腹部傍大動脈リンパ節に流入するリンパ流が存在することも証明しました(7)。特に、腹部傍大動脈リンパ節に存在するセンチネルリンパ節を検出するにはラジオアイソトープ法が必須であることを報告しました(8)。

1) Eur Radiol. 2011;21:1850-7. 2) Radiology. 2008;248:917-24.
3) Magn Reson Med Sci. 2012;11:283-9.
4) Radiographics. 2000;20:1227-43. 5) Abdom Imaging. 2003;28:877-86.
6) Radiology. 2004;232:767-72. 7) Gynecol Oncol. 2016;140:400-4.
8) Int J Gynecol Cancer. 2017;27:1517-1524.

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