MRI

1988年にMRが導入されて以来,当科のMRI研究は,基礎から臨床まで多岐にわたって行われてきました.具体的には,新しいパルスシークエンスの開発(樋口,押尾),神経放射線研究(志賀・百島),MR angiographyの研究(湯浅),肝特異性造影剤の研究(谷本,上腹部の項をも参照),経直腸コイルの研究(今井),などが挙げられます.中でも特筆すべきことは,1990年に樋口順也 (現国立医療センター放射線科医長)がボストンのBrigham and Women’s hospitalと共同で世界に先駆けて高速スピンエコー法を開発したことです.以後,高速スピンエコー法は臨床撮像法の中心的な位置を占めています.その後,押尾晃一により新しいパルス系列GRASEも開発されています.
このような研究をふまえ,現在,当科では基礎および臨床の両面からさらなる研究を進めており,特に泌尿器領域での拡散強調像の活用(泌尿器の項を参照)や心臓MRIについての検討(循環器の項参照)を行っています.ここでは,最先端の基礎的研究をご紹介します.

拡散MRI研究

MRIによる拡散のコントラストは画像法以前から知られていて,今日にいたるまで臨床的にも日常的に使われています.しかしながら,MRIによる物理的な拡散計測のメカニズムは明らかになっているものの,生体におけるコントラストメカニズムは正確には不明と言われ続けています.生体においても比較的単純な系のふるまいについては2005年前後から急速に研究が進みましたが,臨床領域の複雑な組織に対する研究はほとんど進歩していません.我々はシンポジウムの場などでこの領域の問題提起および基礎から臨床への情報拡散をはかってきましたが,近年ようやく画像データと組織学的な情報を結びつけるモデル,ならびにこの情報を視覚的にとらえることのできる画像表示法を提案することができました(Magn Reson Med 2009:27:355-9, Magn Reson Med Sci 2014:13:191-5, Magn Reson Med Sci 2016;15:146-8)(図1).今後このモデルを中心に拡散MRIコントラストの解明を進める予定です.

図1

図1

 

冠動脈MRA研究

MRIによる冠動脈造影法は現在主流であるCTによる方法に比べて放射線被曝がない,造影剤を使用しない等の利点がありますが技術的に難しく,現在まだ一般的に広く行われるまでには至っていません.最も大きな問題は,心拍動や呼吸など動きの影響をいかに排除するかという点にあります.現在行われている方法はナビゲーターエコー法と呼ばれ,横隔膜の位置を検出して呼吸による変位がある一定の範囲にあるデータだけを取得し,それ以外は捨てるというものです.我々はこれに対して,MRI画像自体から呼吸による変位を検出して補正することにより,すべてのデータを利用する方法を提案してきました(特許第3668816号)(図2).この方法では,より短時間に高精度の画像診断が可能となります.現在実用化に向けて改良を重ねています.

図2

図2

MRIでは,次々に新しい撮像法が開発されています.一方で,MRIを撮像する際にはさまざまなパラメータがあり,その組み合わせにより,得られる画質は影響を受けます.それぞれの撮像法の特徴を最大限に生かすためには,最適なパラメータを設定する必要がありますが,これは理論だけで決めることはできず,実際の試行錯誤の上で確立されてきました.当施設では,新しい撮像法に対するパラメータ最適化を体系的に行う研究をすすめています.その結果は臨床症例で確認し,常に最大限のメリットを診療に還元できるよう,工夫しています.(健常例,臨床症例いずれも倫理委員会で検討され,承認を受けた範囲で施行)
その一例として,近年,compressed sensing と呼ばれるノイズを低減する手法がMRIの信号処理にも応用され,画質劣化を抑えつつ撮像時間を短縮することができるようになりました.健常者で最適化を行った後,頭部やMRCP(膵胆管像),骨盤腔の 3D撮像の際に利用されています.

page top