CT
1990年代にMRの台頭で置換されるのではないかとまで言われたCTですが,MDCTの登場で息を吹き返し,現代の画像診断においては中心的な位置を占めています.我々は,MDCTの登場以降は基礎的研究にも力を注ぎ, CTの新たな方向性を模索し,発信してきました.
現在もさまざまな検討を行っていますが,その中から2つのテーマをご紹介します.
Dual Energy CT
Dual-energy CT とは,管電圧の異なる2種類のX線でCTを撮影する技術です(図1).現在のCTは,1つの管電圧(Single-energy CT:通常120kVp)で撮影を行いCT値の情報を得ていますが,「ビームハードニングアーチファクト」によりCT値に不正確さがあることが知られていました.Dual-energy CTは,管電圧の異なる2種類のX線でCTを撮影する技術です.2種類のX線のデータがあると,「ビームハードニングアーチファクト」を抑制した様々なエネルギーの仮想単色X線画像を得ることができます.,①物質弁別画像(図2)(物質毎の情報),②仮想単純CT画像(図3),③CT登場時から問題となっていた「ビームハードニングアーチファクト」を低減した仮想単色X線画像(図4),などを得ることが可能となっています.
我々は,血管を模擬したファントムの検討や,実際の臨床画像から,70 keV付近の仮想単色X線画像が,ノイズが最も少なく,コントラストが最も高く,しかも,広く臨床で用いられている120 kVpのCT画像よりも画質が高いことを報告しました(Radiology. 2011;259:257-62[→], Invest Radiol. 2012;47:292-8[→], Medicine. 2015;94(15):e754[→]) .これは,仮想単色X線画像が,CTの登場以来用いられてきた120kVp画像にとって代わり日常臨床に広く使用される可能性を示したものです(図4).さらに近年,仮想単色X線画像に逐次近似法再構成法を応用できるようになってきており,さらなる仮想単色X線画像の画質向上が見込まれています(図4) (Eur J Radiol. 2014;83(10):1715-22[→], Eur J Radiol.2017;95:212-221[→]).
また,造影後のDual-energy CTから作成した仮想単純CT画像のカルシウムスコアと,真のカルシウムスコアとの間に良好な相関が見られることを報告し,カルシウムスコア用単純CTの省略の可能性を示しました(図5) (J Cardiovasc Comput Tomogr. 2014;8:391-400[→]).CT検査全体の被ばく線量の低減や,CT検査時間の短縮に貢献すると考えられます.
現在,Dual-energy CTの基礎的検討とさらなる臨床応用に関する研究が究が進行中です.
図1. Fast kVp-switching方式のdual-energy CT模式図(GEヘルスケア社提供)
図2. ヨード画像(物質弁別画像): 末梢血管. 造影CT画像(maximum intensity projection 像)(左)では,石灰化でどの部分に有意狭窄が存在するか判断がつかないが,ヨード画像(中央)では,矢印の部位に有意狭窄があることが分かる.ヨード画像(中央)は血管造影画像(右)とよく一致している.
図3.腹部における真の単純CT(左上)と造影CT画像(右上)と仮想単純CT画像(右下).造影CT画像(左上)と比較し,仮想単純CT画像(右下)では,ヨード造影剤が良好に除去されている.
図4.ルーチン腹部CTにおける同一症例の120 kVp画像と仮想単色X線画像(70 keV)の比較(従来の再構成法と逐次近似再構成法).画像ノイズとストリークアーチファクトは,仮想単色X線画像(下2つ)の方が,120 kVp画像(上2つ)より少ない.逐次近似再構成(右側2つ)により,仮想単色X線画像と120 kVp画像の両方ともノイズ低減がなされている.
図5.冠動脈における仮想単純CT
造影CT画像(中央)と比較し,仮想単純CT画像(右)では,冠動脈,左房,上行/下行大動脈内のヨード造影剤が除去され,冠動脈の石灰化は残存している.真の単純CT(左)の左冠動脈の石灰化(矢印)と,仮想単純CT画像(右)の左冠動脈の石灰化(矢印)は,形状が概ね一致している.
4次元CTによる動態診断
CTは開発当初より2次元画像として用いられてきましたが,2000年代中頃になって3次元診断が普及した結果,CTによる血管造影,排泄性尿路造影,注腸造影といった造影X線検査の置換が進みました.近年,頭尾方向に16cmの幅を有する広い検出器CTが登場し,特定部位や臓器を高速で断続的に撮影することによって,4次元での動態診断(動画によるCT画像診断)が可能になってきました.
この4次元動態診断により,これまでの形態診断から,動態/機能に関する評価,診断が可能になっています.我々は,早期よりこの可能性に着目し,4次元CTの硬膜動静脈瘻のtype分類(栄養動脈の同定)における有用性(図6)(Neuroradiology. 2013;55:837-43[→]),鼻腔咽頭機能/発声評価における有用性(図7)(J Plast Reconstr Aesthet Surg 2015;68:479-84[→]),腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療後のエンドリークtype分類における有用性(図8),などを報告しています.
現在,人体の様々な部位における4次元動態診断の有用性に関する基礎的検討および臨床研究が進行中です.
図6(動画)
図7(動画)
図8(動画)