研究

上腹部

肝疾患,特に肝細胞癌の画像診断は,日本の放射線科医が最も多く研究に携ってきたテーマと思われます.当科でも谷本伸弘が,MRIが導入された1980年代後半以降さまざまなMRI造影剤を駆使して,感度,特異度の高い肝腫瘍の診断をめざし,数多くの研究成果を発表してきました.その成果に対し,谷本伸弘は2002年に「肝臓のMRI造影剤に関する研究-特に超常磁性酸化鉄製剤の肝網内系組織との関連について-」というタイトルで慶應義塾大学医学部三四会北島賞を受賞しています.その後の研究も含め,肝特殊MRI造影剤を中心に以下のようなことを明らかにしてきました.


超常磁性酸化鉄(superparamagnetic iron oxide: SPIO 商品名リソビスト)は1980年代から米国で開発が進んだ陰性造影剤で,肝の細網内皮系Kupffer細胞に貪食され,そのMR信号を低下させます.癌組織は細網内皮系を持たないので,肝に癌があると、癌は黒い背景肝中の白い点として描出されます.当科でSPIOのT2短縮効果とT2*短縮効果を本邦で初めて分離し,細網内皮系の機能と空間的分布を考察して鑑別診断に役立てました(J Mag Reson Imaging. 1994;4:653-657, J Mag Reson Imaging. 2001;14:72-77, Radiology. 2002;222:661-666.).また、肝切除を前提とした術前検査では侵襲性のあるCTAP/HA(CT during arterial portography/hepatic arteriography)が基本的に活用されていましたが、SPIOの腫瘍検出能はこれに匹敵することを最初に明らかにし,やがてCTAP/HAはSPIOに置換されていきました(J Gastroenterol. 2005;40:371-380).また、SPIOを用いたMRIがメタボリック症候群の前駆者たる非アルコール性脂肪性肝炎NASHの診断に有用であることを明らかにし(J Magn Reson Imaging. 2008;28:1444-1450),生検なしにNASHの診断が可能になりました.
その後2007年頃に登場したGd-EOB-DTPA造影MRI(以下,EOB-MRI:商品名EOB・プリモビスト)は,動脈相においてリンギングといわれるアーチファクトがしばしば認められ,画質低下の一因となっていました.この原因の解明するために,computer simulationを用いた解析を行い,撮像matrixの形状がその一因となることを解明いたしました(図1)(Magn Reson Med Sci. 2012;11:91-97)
また,EOB-MRIの日常臨床への普及に伴い,肝細胞相でのみ認められるような乏血性の小結節が多数見受けられるようになり,結節内の脂肪成分が多血性HCCのリスクとなることを解明しました(図2)(Magn Reson Med Sci. 2013;12:281-287).
さらに,病理学教室との共同研究にて,Gd-EOB-DTPAの肝細胞癌への取り込みに際して,OATP1B3という細胞膜トランスポーターが最も強く寄与する事を解明し,さらにこのOATP1B3の発現制御にWnt/β-catenin signalが強く関与していることを解明しました(図3)(J Hepatol. 2014;61:1080-1087).

図1 Computer simulationを用いたアーチファクトの検討.Tanimoto A et al. MRMS 2012;11:91-97. より

図2 EOB-MRIを用いた乏血性結節に対する多血化因子の検討.Joishi D et al. MRMS 2013;12:281-287. より

図3 EOB-MRIを用いた乏血性結節に対する多血化因子の検討.Ueno A et al. J Hepatol. 2014;61:1080-1087.

 

執筆にかかわったガイドライン

日本医学放射線学会および日本放射線科専門医会・医会共同編集 肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン2007年版

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