核医学診療

核医学診療は、ここ数年で大きな変革期を迎えています。核医学が特に大きく貢献する新たな領域として、認知症診療とセラノスティックスが注目されています。

認知症診療

認知症領域では、アルツハイマー病の治療薬として抗アミロイドβ抗体薬が登場しました。これは、アルツハイマー病の原因の一つと考えられている脳内のアミロイドβという異常タンパクを標的とする治療薬です。治療効果を最大限に引き出すためには、脳萎縮が進行する前の適切な時期に、脳内のアミロイドβ蓄積を正確に評価することが重要であり、アミロイドPETはコンパニオン診断として不可欠な役割を担うようになりました。さらに、研究分野では神経原線維変化の原因となるタウ蛋白の蓄積を評価するタウPETも活用されており、今後の神経変性疾患研究において、これらのPETイメージングは欠かせない検査となります。

https://kompas.hosp.keio.ac.jp/science/202302/を一部改変

セラノスティックス

一方、セラノスティックス(theranostics)とは、「治療(therapy)」と「診断(diagnostics)」を組み合わせた核医学診療の概念です。腫瘍に特異的に集積する放射性医薬品を用いてPETあるいはSPECT検査を行い、病変の存在や広がり、薬剤集積の程度を評価した上で、同じ分子標的に結合する治療用放射性医薬品を投与し、がん細胞を選択的に治療します。これにより、治療効果が期待できる患者を事前に選別できるとともに、不要な副作用の軽減が可能となります。セラノスティックスは、個々の病態に応じた個別化医療を実現する手段として、近年大きな注目を集めています。現在、神経内分泌腫瘍や前立腺癌に対する核医学治療が保険診療として実施されていますが、今後はさまざまな悪性腫瘍を対象とした新たな治療薬の登場が期待され、がん診療における重要な柱の一つとなると考えられます。

核医学診療を支える医療機器

これらの核医学診療を支える医療機器として、SPECTおよびPET装置は極めて重要です。当院では、PET装置としてSiemens社製Biograph Vision.X、SPECT装置としてGE社製Starguideを導入し、計6台体制で診療および研究を行っています。今後はPET核種として¹⁸Fに加え、⁶⁸Ga、⁶⁴Cu、⁸⁹Zr、また治療核種として¹⁷⁷Lu、²²⁵Ac、²¹¹Atなど、多様な核種を用いた核医学診療の発展が期待されています。当院の最新装置は、これらの核種を用いた高精度イメージングや線量評価(dosimetry)の研究においても、大きな力を発揮するものと期待されます。

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