パテントブルー色素の利用

色素で青染したリンパ管への造影剤注入
1920年代後半から,全身の血管造影法が相次いで開発されたが,非常に細いリンパ管に造影剤を注入することは技術的に困難であったことから,リンパ管造影はなかなか実現しなかった.この壁を打ち破ったのが,Kinmonthらで(1955),事前に皮下に色素を注射してリンパ管を肉眼で容易に同定できるようにすることで,リンパ管造影を比較的容易に行なえることを示した.
Lymphangiography – A Technique for its Clinical Use in the Lower Limb
リンパ管造影 - 下肢における臨床応用の技術
Kinmonth JB, Taylor GW, Harper RK. Brit Med J. Apr 16, 940-2, 1955
青い色素パテントブルーを皮下注するとリンパ管が青染することを利用して,リンパ管造影を行なう方法を具体的に詳述している.この前年に英国王立外科学会の記念講演で同様の内容を発表しているが,まとまった論文としてはこれが初出である.造影剤はジオドン(diodone)で,リンパ管壁から急速に拡散してしまうため,迅速な撮影が必要であることが強調されている.現在ではリンパ管造影はほとんど行なわれないが,色素によるリンパ系染色はセンチネルリンパ節生検に際して行なわれており,形を変えてこの技術が現在にも活かされていると言えよう.
リピオドールによるリンパ管造影

リピオドールによるリンパ管造影(正常例)
Kinmonthが使用した造影剤は水溶性ヨード製剤であったため,注入後ただちに撮影しないと造影剤が拡散して画質が急速に劣化する問題があったが,油性造影剤リピオドールを使用することによりこれを実用的なものとしてリンパ管造影法を確立したのがWallaceである(1961).この方法はその後長く行なわれ,特に悪性リンパ腫の病期診断には重要とされ1990年代までは行なわれていたが,CT,MRIなどの画像診断法が発達した現在,リンパ管造影が行なわれる機会はほぼ消失したといえる.
Lymphangiograms: Their Diagnostic and Therapeutic Potential
リンパ造影-その診断的ならびに治療的可能性
Wallace S, Jackson L, Schaffer B, Gould J, Greening RR, Weiss A, Kramer S. Radiology 76:179-199,1961
前掲のKinmonthによる色素注入法を利用し,造影剤を油性ヨード造影剤であるリピオドールに変えたものである.冒頭に「この(Kinmonthの)方法に多少の変更を加え」とあるが,この造影剤の変更にはきわめて大きな意義があり,リンパ管内に長時間とどまり,かつX線不透過性にも優れるリピオドールの使用により,臨床応用に充分耐えるリンパ管造影法が確立された.ここでは腫瘍,リンパ浮腫など110症例,207肢についてその所見が記載されている.