臨床研究:実際の患者データや治療現場を対象とした研究

Big dataよりAYA世代乳がんに最適な放射線治療を探る

1万例を超える詳細な実臨床データを解析することで、画一的に“年齢だけで決めない”個別化された放射線治療の適応を考える研究です。若年(AYA世代)で乳がんを発症した患者さんは、治療効果とともに生活の質(QOL)や整容性などへの配慮が特に重要です。現在、乳房温存手術後の放射線治療では、年齢を理由として一律で線量を増やす「ブースト照射」が行われていますが、その妥当性は十分に検証されていません。本研究では、年齢以外の再発リスク因子を明らかにすることで、治療強度を最適化する指標の開発を目指します。これにより、AYA世代乳がん患者さんにとって、より安心で負担の少ない個別化医療を提供するとともに、全ての患者さんに過不足のない放射線治療を実現するための仮説を創出することを目指しています。

早期肺がんに対する体幹部定位放射線治療

早期肺がんに対する体幹部定位放射線治療(SBRT)において、私たちは腫瘍中心部の線量を高く設定し、同時に周囲の正常肺組織の線量を低くする治療法を開発し、安全性を確認しました。この方法の導入から20年経過していますが、その間に治療を行った患者数は700名を超え、極めて良好な治療成績を認めています。日本のSBRTの標準的方法での局所制御率は85%なのに対し、この方法では99%を超え、ここ8年間で局所再発を1例も認めておらず、副作用も増えていません。この安全で良好な治療成績を示す方法の概念を応用し、心臓、気管支や食道などのリスク臓器に近い肺がんでは線量処方デザインを工夫しています。今後は、これらの治療成績を体系的に整理し、論文化を進めていく予定です。

肝臓癌に対する新たな選択肢としての体幹部定位放射線治療

早期肝臓癌に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)の前向き症例登録研究が、慶應義塾大学・高知大学を中心としてオールジャパン体制で始まります。本研究は、SBRTの有効性と安全性を前向きに検証することを目的としています。 日本放射線腫瘍学研究機構を基盤として、全国の施設から600例を目標に登録し、長期予後や再発様式、有害事象を追跡します。SBRTは短期間で高精度に照射でき、肝切除やラジオ波焼灼療法が困難な場合に有望な選択肢とされますが、十分なエビデンスはまだありません。本研究で得られるデータは、日本発の大規模なリアルワールドデータとして、将来のガイドライン改訂や治療選択肢の拡充に大きく貢献することが期待されます。

III期肺がん化学放射線療法における新規照射法の開発

2018年以降、III期肺がんに対する化学放射線療法後に維持療法として免疫チェックポイント阻害薬が導入され、治療成績が大きく向上しました。しかし、いまだに18-30%の方が放射線照射範囲内からの再発を来すと報告されています。また、局所制御向上目的に米国にて線量増加試験(第3相試験:RTOG0617)が行われましたが、線量増加群(74Gy)でむしろ全生存率、無再発生存率が低下するという結果となりました。そこで当院および関連施設では定位照射の技術を応用し、病巣の中心部は線量を増加し辺縁は急峻に線量を下げる照射法を始めています(下図のSIB-IMRT)。すなわち、腫瘍に対しては高線量を投与すると同時に周辺組織の線量は低減することが可能となりました。この方法の治療成績や有害事象について現在解析しています。

肝SBRTの安全性と臨床成績に関する研究

肝臓に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)は、切除不能肝細胞癌や転移性肝腫瘍に対する有効な治療法として注目されています。まだ手術や他の治療法に比べて普及度は高くありませんが、今後さらに広がっていくことが期待されます。肝SBRTは比較的安全な治療法ですが、長期経過観察にて、稀に胆管狭窄を来すことがわかりました。そのため症例を集積・解析し、その特徴を明らかにする研究を進めています。また、基礎的な肝障害を有する患者における肝SBRTの臨床成績をまとめ、安全性と有効性を評価しています。

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